Capsella

もうすぐそこまで来ているね
見慣れていたはずの手が枯れ枝みたくカサって鳴る音色は薺のよう


荒れ果てた土地に立って
狂いもせず ただ思って食い入るように見つめてる
ここには何もないと気づいて

汗で湿る背中 這わす舌先に広がるその味も

落ちて 染みて 土に孵る君の影もこの手に残せず

芽を出し 葉並べ 道端 人気ない肌寒い冬を越し
小さく吹かれる花弁 出会えた君は美しかった
これからずっと側にいよう と細くて手折れそうな身体を
掴んで抱きしめた瞬間に その花弁を散らせ消えた

手の平を紅く汚して 涙溢れ もう愛でる事できず
千切れたその身体からは繊維を晒してる


また来年も春は来る だから待つよ 君が咲くまでずっと
広げた手 ヒラリ落ちていく君は綺麗だね


待つと決めた夏の終わり
秋が過ぎようとしているけど

何で君は種を落とす事もせずに あの姿のまま

赤黒い身体に群がる小さく転がる蛆の群れ
誰にも渡せない だったらこのまま君の隣で死のう

いつかは土に孵るんでしょ?
それまで君を一人ぼっちにしないよう 見てるよ
大丈夫 この身体は痛みを感じない


どれくらいの時間が過ぎて往ったのか覚えてられずに
霞みだした目も渇ききって君が見えなくなったよ
支え効かず倒れる身体は君の柔く腐敗した身体に触れ
指が刺
さり抉って もう動けない

冷たくなり始めた身体にとうとう君の元へ行けるとわかって嬉しく思った
舞ってる雪に気づきもせずに

意識の遠のく瞬間 優しい男の声が聞こえ
奪ってしまった思いに ごめん と謝りたくなった


今更 気づいた
本当は君には愛している人が いた という事実に身体が痛くて
痛くなってしまって

今まで感じなかったはずのどこかもわからない痛みに
何かが壊れる音色がカサリと耳の奥をつつく


初めから知っていたなら君を手折る何てしなかったのに
もう戻る事ない空洞の骨に花弁を

幾年が過ぎて換わった 荒れた姿 跡形もなく消えた
れなのに君は道端に奇跡の花を

ほら 今年もまたやって来た 僕を責め立てる季節
七色に輝く虹 生暖かい風を連れて


俺が見つめる先には凛と背筋を伸ばして
君は荒地の真ん中 愛した人を探し続けてる




2011.08.05
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